日本ECの未来について:一橋大学 山下教授のゼミ生との意見交換レポート
こんにちは。Miraklの佐藤恭平です。先日、一橋大学マーケティング・流通論の山下裕子教授からお声がけいただき、ゼミ生の皆さんとの意見交換をさせて頂きました。
Miraklや事例紹介から始まり、その後、質疑応答を経た後、最後に学生の皆さんが考えているビジネスプランの発表を聞きました。質疑の中では、「今後の日本のECはどうなっていくのか?」といった質問なども飛びだし、私としても大きな刺激を受けました。本ブログでは、その模様をお届けします。
第3の選択肢: マーケットプレイスの紹介
まず、私からMiraklの会社概要、そして、どのような会社で弊社プラットフォームが活用されているかを簡単にご紹介しました。
マーケットプレイスは「自社ECサイトを他社に開放すること」であり、自社のECサイトで他社が商品販売ができるように売場を開放することです。これ自体はアマゾンや楽天と変わりありません。
しかし、巨大ECモールにばかり依存してしまうと対等な協力関係を維持するのが難しく、どういったお客様が商品購入してくれているか、という重要な販売データを細かく知ることができません。一方、自社でECサイトを立ち上げても、今度は集客で苦労するケースがほとんどです。
そういった悩みの解決策として、マーケットプレイスがあり、これは「第3の選択肢」とも呼ばれています(第1が巨大ECモールへの参画、第2が自社でのECショップ展開)。
ただ、自身でアマゾンのようなモールを立ち上げるには、巨額のIT投資が必要です。これを簡単に実現できるようにしたソリューションがMiraklです。
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※詳細はオンデマンド・ウェビナー「オンラインマーケットプレイスとは? 入門編」をご覧ください。
特徴的なMirakl導入事例のご紹介
マーケットプレイスの概要説明の後、学生の皆さんに具体的な利活用のイメージを持ってもらうために、いくつかの特徴的な事例ケースをご紹介しました。
Best Buy Canada
カナダの家電量販店Best Buyでは、顧客との接点の幅・頻度を高めるため、家電のみならず家具やベビー用品などさまざまな商品を取り扱っています。
ただし、これら専門外の商品の売れ筋を見極め、仕入れ、販売管理するのは容易ではありません。そこで同社はMiraklを導入し、自社のECサイト上で他社商材をラインナップし、販売できる仕組みを構築しました。
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サイト画面上、「Marketplace seller」という青いアイコンがついている商品(上記赤枠部分)がそれに該当します。今やBest Buyはカナダ国内で、アマゾンの次にベビー用品の販売量が大きいそうです。
Madewell
Madewellは、J.Crewが手がけるジーンズ中心のアパレルブランドです。自社ECサイトにおいて、当然自社のアパレル商材を中心に販売を行っていますが、それ以外にも関連するアクセサリーやブランドの世界観が近いローカルブランドの取扱いも行っています。
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同ブランドは、「ブラック・ライブズ・マター」のような人種差別撤廃に賛同しており、その観点でアフリカ系アメリカ人の手がけるブランドを展開しています。また、上画像内の赤枠にあるように売上の50%を乳がん研究基金に寄付するブランドなども、同社ECサイト配下で取り扱われています。
THE BAY
北米の大手百貨店であるTHE BAYでは下図の通り、店頭で商品ディスプレイだけを行い、実際の購入はECサイトでしか受け付けない商材も展開しています。
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メキシコの百貨店Liverpoolも、返品は店頭でしか受け付けないそうです。そして、返品に来たお客様の多くが、何かしら別のものを購入して帰る。物理店舗を持っている企業でなければ出来ない施策を、思考錯誤しながら展開しているのです。
「クリック & コレクト」というECサイトで購入して、店頭で商品を受け取るサービス。そして、「ストア to ウェブ」という店頭在庫がない場合、その場でECサイトへ誘導して購入してもらう、といったオムニチャネル・O2O施策が、もはや欧米では当たり前になりつつあります。
H&Mグループ AFOUND
スペインのアパレルブランドであるH&Mグループで、リサイクル可能な商品しか扱わないのがAROUNDというブランドです。サーキュラーエコノミーを掲げた戦略的ブランドですが、ここのサイトではH&Mとは資本関係のないアディダスの商材なども取り扱われています。
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フランスではアパレル商材の廃棄が法律で規制されていることもあり、当初は流通在庫をどう処理するか?という問題意識からできたブランドですが、「サーキュラーエコノミー」という高尚なお題目があることで、さまざまなプレイヤーがここに賛同・出店し、ブランド自体が盛り上がっています。
日本ではまだ流通在庫の半分が廃棄されている現状がありますが、今後、環境問題に対する意識の高まりと共に、こうした動きは出てくると思われます。
学生の皆さんからのQ&A
事例紹介の後、学生の皆さんから多くの質問をいただきました。
Q1:なぜMiraklはフランスから出てきたのか?
元々、ヨーロッパには強いものに対抗しようとする気質がある気がします。米国のプラットフォーマーだけにこうした技術を独占させるのは、世の中にとって良くないことである、という信念の下に創業者2人はMiraklを起業しました。
Q2:自社でマーケットプレイスを展開するモチベーションは何か?
例えば、「豊かなライフスタイル」を標榜する家具店があったとします。ただし、商材がソファなど自社の売れ筋である大型家具だけでは来店頻度が限られてしまう。そこで自社の「豊かなライフスタイル」という世界観に共感してくれる他社商材を並べられれば、自社にとっては品揃えが増えるし、顧客との接点が拡大していく。また、他社商材が売れた時の手数料収入も見込めます。
ここを巨大ECモールにのみに頼ってしまうと、「豊かなライフスタイル」の提案は困難ですし、どんなお客様がそこに賛同してくれるのか、その重要なポイントが見えなくなってしまいます。
Q3:消費者目線で見た時にアマゾンではなくマーケットプレイスを選ぶメリットは?
ワンストップショップ、そこにいけば自分がほしいものが揃っている、というのが一番大きなメリットかと思います。あるブランドに対してロイヤリティを持っているお客様の場合、そのECサイトに行けば、当該ブランドだけでなく、同じ世界観でセレクトされた3rdパーティー商材も選べる、というのはメリットだと思います。さらに、自分の信頼しているブランドという目利きがはいっていたら、その価値は大きくなります。
一方、巨大ECモールはには基本的に「何でもある」が価値観。ただし、「何でもある」が故に、大切にしているブランドの世界観みたいなものは、作り出すことができません。
Q4:マーケットプレイスを運営するにはそれなりの集客が必要そう。地方や中小企業はターゲットではない?
基本的には、集客力や取引量が小さい企業がマーケットプレイスを展開するのは難しいです。人が来てくれなければ、販売事業者もそこで売りたいとは思わないからです。
しかし、「地域に根ざした取り組み」という点では、例えばフランスの郵便局はMiraklを使い、各地域企業の特産品などを贈答用としてマーケットプレイスで展開していたりします。また、地域のワイン生産者とレストランをつなぐマーケットプレイスを立ち上げたフランスのスタートアップもあったりします。
マーケットプレイスの本質は「マッチング」です。なので、似たようなニーズ・世界観を求めている人同士をマッチングでき、それが商売になりそうであれば、大手プレイヤーでなくともチャンスはあるかもしれません。
Q5:日本のEC市場は今後、どうなっていくと思うか?
米国は広大な土地があるため、ECが一気に流行しました。日本は卸売の比率が高いのと、国土が狭い中で流通網が非常に発達していることもあり、ECに頼る必要がありません。
ただし、今後は実店舗を活用したオンライン施策がもっと増えていくと思っています。Liverpoolの例のように、「返品は実店舗でしか受け付けない→店舗でのクロスセルに繋げる」みたいな話は、日本の流通のお客様と会話していても非常に反応が良いです。
オンライン専業の巨大ECモールに対抗していくには、実店舗をどう活用していくか?がポイントになると思います。「店舗があったからこそ進まなかった」ものが、「店舗があるからこそ進む」という世界になっていくのではないでしょうか。
学生からのビジネスプラン説明・意見交換
質疑応答の後、山下先生のゼミ生、全部で4つのチームからマーケットプレイスを活用するビジネスプランについてのプレゼンを受け、その後に各チームと意見交換を行いました。内容詳細のご紹介はここでは控えますが、以下のようなテーマでした。
熊野古道における宿泊施設のマーケットプレイス(熊野古道を訪れる観光客と現地の宿泊施設のマッチングを行う)
美術館を中心に連携した地域企業が商材提供するマーケットプレイス(地方にある私立美術館の高い認知度を活かし、周辺地域企業の活性化を狙う)
化粧品メーカーにおけるロイヤリティプログラムを活用した小売店との連携強化(メーカーのオンライン上のID情報を、小売店への送客に結びつける)
キッチンカーのマーケットプレイス(提携キッチンカーの販売状況を一括管理し、展開エリア・傾向などの市場分析につなげる)
いずれも実ビジネスをしていては余り気付かないような斬新なアイデアで、私自身、非常に大きな刺激を受けました。
最後に(所感)
山下先生のゼミ生の質問レベルの高さと斬新なアイデアとに驚かされ、刺激を受けた時間でした。サプライチェーンに代表されるような時系列ベースでの流れの効果・効率の高い連携は日本企業がそもそも強いところでしたが、マーケットプレイス上で、消費起点のタイミングでの需給マッチングをいかに効果・効率を高く実現するかは、プラットフォーマーモデルとして世界を牽引する大きなアイデアとなっています。こうした若い方達の中から、新しいビジネスモデルやアイデアが出てくることを私も強く期待しています。今回はこのような貴重な機会をいただいた、山下裕子先生には感謝の気持ちでいっぱいです。この場を借りて、改めてお礼申し上げます。また、今後も色々な機会でご一緒させて頂ければ幸いです。