リテール領域に豊富な知見を持つコンサルタントが見通す「小売業の未来で勝つための大原則」 エグゼクティブラウンドテーブル実施レポート
こんにちは。Mirakl マーケティングディレクターの松山です。
Miraklは先日、大手小売を中心とした企業のエグゼクティブの皆様をお迎えし、朝食会を兼ねたラウンドテーブルを開催しました。そこで、ベイン・アンド・カンパニーのパートナーである堀之内順至さんに「小売業の未来で勝つための大原則」をテーマとした講演を行っていただいた後、参加者の皆様からのご質問やご意見をもとに議論を行いました。
堀之内さんは、約20年のコンサルティング経験と10年以上にわたる事業会社での経験を持ち、現在はリテールプラクティスのリーダーとして、リテール領域での豊富なプロジェクト経験を積まれています。今回の講演では、俯瞰的な視点から見た小売業界の動向やこれからの戦略方向性、先進的な海外事例などについてお話しいただきました。また、参加者の皆様からは、自社の課題に照らし合わせたご感想や、これからの変革についてのご質問などが寄せられましたので、その模様をレポートします。
日本の小売業界の現状と、EC化が先行する海外の動向
まず堀之内さんは、小売業界の近年の変化について、消費者ニーズの多様化やOMO(Online Merges with Offline/オンラインとオフラインの融合)の広がり、物流コストの高騰などに言及。その上で、「リアル店舗を主体にビジネスを展開してきた企業は、どのようにECを伸ばし、どのようにOMOを収益化していくのかが重要になる」と語りました。
一方で、中国や韓国のように、ECの普及が一巡した国では、リアル店舗のメリットが再認識される動きも見られています。特に中国の都市部では、リアル店舗の需要が大きく伸び、反対にECの需要が鈍化する傾向が。そのため、先行する国ではECの普及とリアル店舗への回帰の両輪が必要になってきているのではないかとの見解を示しました。
これらの状況を踏まえ、日本のリアル主体の小売企業は、「ECを伸ばすことは不可避」としながらも、「ECで収益化の規模・タイミングを見据えて、全社収益を毀損しないようにしつつ、モノを売って利益を稼ぐモデルから収益源を多様化させていく必要があります。そこに向けて、意思決定やイノベーションのスピードも上げていかなければなりません」と指摘。デジタル主体の小売企業は、「リアルの顧客接点という小売特有のケイパビリティを持たない限り、ECプレイヤーの中で勝ち続けられない」と語りました。
小売業の未来で勝つための、4つの大原則
では、将来に向けて、小売企業は何から着手していくべきなのか。堀之内さんが「小売業の未来で勝つための大原則」として挙げたのは、大きく4つの要素でした。
まず、大前提として取り組まなければならないのは、「パーパスに基づく価値提供」です。いろいろな調査でも、9割の人が「品質と価格が同じなのであれば、パーパスを持つ企業のものを買う」と回答しています。だからといって単にESGを掲げるのではなく、業界内での優位性や差別性を打ち出し、その実態をつくっていくことが重要です。
その上で、「顧客基点で事業を動かす」、「オムニチャネル3.0で抜きん出る」という2つの要素を揃える必要があります。
先述にもあるように、近年は消費者ニーズが多様化、高度化しています。その環境の中では、幅広い顧客接点から得たデータに基づいて、個人に最適化されたサービスの提供、つまりパーソナライズにきっちりと着手し、LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)を伸ばすことが重要です。また、オムニチャネルのレベルを上げ、リアルとECの両輪におけるコアケイパビリティを磨き上げることも必要不可欠です。
この2つの要素が揃ったら、最後に取り組むべきなのは、「モノ売りを超える」こと。物流コストが利益を圧迫する日本では、モノ売り以外の収益源を早期につくっていくことが、将来に勝ち残っていくために必須の要素となります。
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「顧客基点の経営ができており、かつオムニチャネルで成果をあげているところは、企業価値もアウトパフォームしている状況です」と堀之内さん。
3つの新領域で「モノ売りを超える」
ベイン・アンド・カンパニーが2030年の小売企業の利益率を試算したところ、2021年には約90%を占めていたモノ売りが約65%に縮小し、モノ売り以外の新領域が残りのおよそ35%を占めるという見通しが得られたといいます。「物販による成長は非常に限定的で、かつ、いろいろな圧力によって利益率を伸ばすことも難しくなっています。その中で、これから数年のうちには、新領域がリテールプレイヤーの利益の多くを占めるようになっていくのではないかと考えています」
堀之内さんが、モノ売り以外の第二の成長エンジンになりうる新領域の例として挙げたのは、「サードパーティマーケットプレイス」「スーパーアプリ」「リテールメディア」の3つでした。
「サードパーティマーケットプレイス」とは、自社商品に加え、第三者の企業も独自に自社の商品を販売できるECプラットフォームのこと。つまり、サードパーティマーケットプレイスを展開する企業は、そこで自社商品を売りながら、自社では取り扱っていない商品を販売する第三者のセラーも取り入れることができるということです。ちなみにMiraklは、このサードパーティマーケットプレイスを構築するためのソリューションを提供しています
「自社の顧客基盤が明確にあれば、その方たちのニーズに合った商品をサードパーティマーケットプレイスで組み上げることで、本業の強化はもちろん、新たな収益源の獲得、そして将来の新規事業アセットの獲得にもつなげることができると考えています」
USの大手家電量販店は、サードパーティマーケットプレイスの展開で、商品ラインナップやカテゴリーを大きく拡充。利用客が自社商品とサードパーティ企業の商品を合わせ買いする割合は、75%にものぼっています。「商品展開をプラスアルファすることで、お客さまのウォレットシェアを取りにいけるというわけです」
「スーパーアプリ」は、日本では未だ顕著な成功事例はありませんが、様な顧客ニーズやユースケースにアプリでワンストップに対応することで、1顧客当たりの収益機会の最大化を目指します。「日本では、おそらくほとんどの消費者がスマホに複数のアプリを入れており、アプリはスマホ上でのシェアを取り合っています。そこで、自社のお客様により深く、長く使っていただくことで、成果につなげていきます」
「リテールメディア」は、小売企業が本業で持っている店舗や顧客データなどのアセットを活用し、広告宣伝ビジネスを展開することです。日本でも、ここ1~2年で注目度が急激に上昇しています。
その理由には、広告と購買接点が近いため、広告効果が非常に短期間で得られることや、購買実績や顧客行動などの詳しいデータからターゲティング精度を高められるため、費用に対して得られる効果が予測しやすいこと、広告起因の購入者を直接把握できるため、顧客単位で効果測定できることなどが挙げられます。「ベイン・アンド・カンパニーの調査でも、広告主の6割がリテールメディアにポジティブな反応を示しています」
最後に堀之内さんは、「現在、グローバルですでに資本市場から評価されている小売企業は、上記の3つを数年前から立ち上げ、結果を出して、将来的にも持続的な優位性があることが認められています。そこに向かうためにも、日本企業はまず、顧客基点へのシフトとオムニチャネルの中での優位性の確保を行い、その上でモノ売りを超えた収益源をどうつくっていくのかという戦略をつくることが非常に重要です」と述べ、講演を締めくくりました。
将来の小売業界を勝ち残っていくには、顧客体験をどう高めるかが重要
後半は、Miraklの代表取締役社長である佐藤恭平がファシリテーターを務め、堀之内さんも含めて、参加者の皆様との意見交換会を実施しました。
参加者のリアル主体の企業様からは「サードパーティマーケットプレイスで様々な商品を集め、すでにある実店舗の利便性を生かして、店頭ピックアップ型のサービスモデルが展開できるのではと思いました」、デジタル主体の企業様からは「自社のアセットを活用したリテールメディアの検討を進めたい」などのご感想が聞かれました。
とあるEコマース企業様からは、「サードパーティマーケットプレイスを展開するにあたって、どの商品カテゴリーから拡充していくべきか」というご質問があり、堀之内さんはそれに対して、「自社の領域からは離れすぎず、自社のカスタマーエクスペリエンスのend-to-endを想像したときに、その延長線上で関係すると考えられるものに広げていくのがいいのでは」と返答しました。
また、とあるメーカー様からは、「たくさんの企業がサードパーティマーケットプレイスを展開し、取り扱い商品を拡充していくと、いずれ品揃えは似通っていくのでは。その際に、どのような差別化ポイントが大事になるのか」というご質問が。堀之内さんも「まさにその視点は非常に重要」とし、「モノだけでなく、会員制のグループや一定の人が頻繁に訪れる趣味嗜好に特化したサイトなどをつくることで、コトの体験価値や利用頻度を上げ、ロイヤリティの高いお客様の規模を最大化することが重要だと考えています」と続けました。
リアル主体の大手小売企業様からは、「今回ご紹介いただいた3つの新領域は、同時並行で取り組んでいくべきなのか、そうでなければどのように優先順位をつけるべきなのか」といったご質問があがり、堀之内さんは「3年後や5年後にどの事業をどれほどの規模にしたいのか、現在のアセットで最も成果が出やすいのは何なのかといったことを経営の皆様と議論し、そこから逆算して方向性をつくっていくことが通例です」と語りました。
最後に
本機会を通じて、小売業が大きな変革期にあると強く感じました。小売りという名の通り「モノ売り」が主な収源である小売業が、数年後にはその収益の約1/3を別の事業から得るようになるというのは、とても興味深い話です。新しい事業を育てるのに数年ほど掛かると考えると、今から手を打たなければ間に合いません。
それだけに、参加した方々からは、真剣かつ様々な意見や質問が挙がっていました。特別講演はもちろん、他の方の意見が参考になるという声も聞かれましたので、今後もこういった充実したラウンドテーブルを企画していきたいと思います。
また、堀之内さんの講演が大変好評だったのを受けて、後日ウェビナーでもご披露いただきました。アーカイブ映像を以下のページでぜひご覧ください。
ウェビナー登録用URL: https://info.mirakl.com/jp-mirakl-webinar-sep-2023-on-demand
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